十月末日・季封宮にて

幻灯火
「ちまきをくれなければ、悪戯をするぞ…もぐ」
古嗣 「というか幻灯火、ちまきを要求しなくても君は今手に持って、あまつさえ食べてるじゃないか」
幻灯火 「もぐもぐ……ん。羨ましいのか? だがこれは玉依姫が他ならぬ私のためだけに作ってくれた特製の南瓜ちまきだ。絶対にやらんぞ」
胡土前 「ん? そのちまきが崩れそうなぐらい山盛りの皿の下に何か紙があるぜ。よっと! 何々……『宜しければ皆様で仲良くお召し上がり下さい』だってよ」
秋房 「このたおやかでありながらもすっと芯の通った強さも感じられる書いた方の心の美しさが窺え思わず家宝として床の間に飾りたくなる素晴らしい字はひ…!!」
古嗣 「うん、これは確かにお姫様の字だね」
幻灯火 「………………………………」
胡土前 「うぉっ、熱!? 何すんだよ、幻灯火」
秋房 「そうだぞ、幻灯火! 貴様、よくも姫様の文を! 隠岐家の家宝(予定)をぉおおっ…!!」
胡土前 「お前、そっちに怒んのかよ……」
幻灯火 「………………・それは反故だろう。おそらく玉依姫は私一人においしく食べて欲しいと書こうとして、ついうっかり皆様でなどと書いてしまったに違いない」
秋房 「そんな訳があるかっ!! 姫様の文を燃やしただけに飽き足らず、姫様が手ずから作って下さったちまきを一人占めするつもりかお前!」
古嗣 「まあまあ、秋房。落ち着いて、どうどう」
秋房 「これが落ち着いてなどいられるか!! あと馬扱いするなよな!」
幻灯火 「そうだ、秋房。落ち着け、どうどう」
胡土前 「お前のそれ、わざとやってる訳じゃねえんだよな……」
古嗣 「幻灯火、あと一つならちまきを頬張っていいから少し黙っててくれるかい?」
幻灯火 「うむ、心得た。もぐもぐもぐ……」
秋房 「こ、心得たとか言いながら三つも食いやがった…!」
古嗣 「ねえ、秋房。突然だけれどこの季封は本当に良いところだね。皆が喜びも苦しみも分かち合い、共に助け合って生きている、とても素晴らしい地だ」
秋房 「当然だ!! なんといっても長である姫様がとてもお優しく素晴らしいお方なのだからな!!!」
古嗣 「まったくその通りだ。
 お姫様はとても優しい。そんなお姫様が今のこの…皆で仲良くという想いを込め作ったちまきを、幻灯火がただ一人でちまきを食べ尽くそうとしている状況を見たらどう思うだろうか」
幻灯火 「…!」
秋房 「…それは、やはり悲しまれるだろうな」
幻灯火 「…っ!」
胡土前 「いやいや、姫さんは結構厳しいとこもあるからなぁ。かーなーりー、怒るんじゃねえか? 当分口利いてくれなくなったりしてな」
幻灯火 「っむぐ……!!
 …………………………よし、これは玉依姫が我々のために作ってくれたちまきだ。皆で!仲良く!!分け合おうではないか!!!」
秋房 「うわっ、白々しい!!」
古嗣 「やれやれ……幻灯火のちまき好きにも困ったものだね」
胡土前 「ま、んじゃ頂くか」
幻灯火 「うむ。存分に食べるがいい。
 ああ、ちなみに中の餡には秋房の(被っている南瓜)頭の中身をくり抜き、蒸してすり潰したものが混ぜてあるぞ」
胡土前
秋房
「………………」
古嗣 「幻灯火、君一人で食べていいよ



後書き
 サブタイトル『幻灯火のちまきすとも止まらない』
 どうあがいてもツッコミ役の胡土前と古嗣。
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